- コラム
2025.02.28
ホテル・旅館がSNSマーケティングに取り組むべき理由と成功のポイント

SNSマーケティングの重要性が高まっています。取り組みを行っているホテル・旅館と行っていないホテル・旅館で、集客力に明確な差が現れることもあります。この状況を踏まえて、導入を検討している方もいるでしょう。
ここでは、ホテル・旅館がSNSマーケティングに取り組むべき理由、導入により期待できるメリット、SNSマーケティングを成功させるポイントなどを解説しています。新たな集客施策を検討している方は参考にしてください。
SNSマーケティングとは
SNS(Social Networking Service)は、インターネット上で他のユーザーとコミュニケーションを図れるサービスの総称です。総務省はSNSを次のように定義しています。
友だちなどとつながって、文章や写真、動画などで自分を表現(ひょうげん)したり、コミュニケーションするサービスのことです。
総務省「情報通信白書 for Kids:暮らしを支えるインターネット:SNSで友だちと交流しよう」
SNSマーケティングは、このサービスを活用したマーケティング活動といえるでしょう。具体的には、SNSを使って顧客とコミュニケーションを図りながら、自社の商品やサービスが売れる仕組みをつくることと説明できます。主な取り組みとして、以下のものがあげられます。
【SNSマーケティングの手法】
- ソーシャルリスニング
- SNS運用
- SNS広告
- SNSキャンペーン
- インフルエンサーマーケティング
また、SNSには、さまざまなサービスがあります。サービスにより、できることやユーザーは異なります。目的に応じて、適切な手法やサービスを選択することが重要です。適切に活用すれば、ホテル・旅館の認知度を高めたり、新規顧客を獲得したりできます。宿泊業界でも、重要性が高まっているマーケティング手法といえるでしょう。
ホテル・旅館がSNSマーケティングに取り組む重要性
ホテル・旅館にとっても、SNSマーケティングは欠かせない取り組みになりつつあります。最も大きな理由は、全年代でSNSの利用率が高まっていることです。総務省が発表した資料によると、主なソーシャルメディア系サービス/アプリの利用率(全年代)は以下の通りです。
年代 | 2013年(平成25年) | 2023年(令和5年) |
---|---|---|
全体 |
42.4% |
80.8% |
6歳~12歳 |
15.9% |
43.5% |
13歳~19歳 |
57.2% |
90.3% |
20歳~29歳 |
65.5% |
93.0% |
30歳~39歳 |
58.9% |
89.4% |
40歳~49歳 |
43.5% |
89.5% |
50歳~59歳 |
29.8% |
83.7% |
60歳~64歳 |
20.1% |
76.7% |
65歳~69歳 |
17.9% | |
70歳~79歳 |
19.3% |
66.6% |
80歳以上 |
16.8% |
52.6% |
10年間でSNSの利用率は大きく上昇しており、80歳以上の方でも、インターネット利用者の5割以上がSNSを活用しています。全体の6割以上が「知りたいことについて情報を探すため」に利用している点もポイントです(令和5年:63.4%)。
SNSマーケティングを行わないと、見込み客に必要な情報を届けられない可能性があります。たとえば、ホテル・旅館の雰囲気がわからないため、見込み客から敬遠される(他のホテル・旅館を選ばれる)などが考えられます。多くのホテル・旅館にとって、SNSマーケティングは重要な取り組みです。
SNSマーケティングの種類
ここからは、SNSマーケティングの主な手法について解説します。
ソーシャルリスニング
ホテル・旅館に関するSNS上の投稿を収集・分析して、サービス改善、新商品開発、ブランド力強化などにつなげる手法です。忖度のないリアルな意見(本音)を集められるため、お客様が抱いている不満や要望を把握できます。アンケートでは集められない意見を集められることもあります。基本的な行い方は以下の通りです。
【実施方法】
- SNSの検索機能を活用する
- SNS用の分析ツールを活用する
- ソーシャルリスニングツールを活用する
SNSの検索機能は無料で利用できます。規模がそれほど大きくない場合は、SNSの検索機能を活用するとよいかもしれません。ソーシャルリスニングの主なメリットは、顧客が抱くホテル・旅館のイメージを把握できること、ホテル・旅館に適したインフルエンサーを発見できること、SNSを使って見込み客を育てられることなどです。基本の施策として、多くのホテル・旅館が取り組んでいます。
SNS運用
SNS運用は、公式アカウントを開設して情報発信を行っていくことです。主なSNSとして、以下のサービスがあげられます。
X(旧Twitter)
短文(全角140文字、半角280文字)を投稿できるSNSです。気軽に投稿できるうえ、リツイートなどの機能も用意されているため、拡散力に優れていると考えられています。新規顧客へのアプローチと認知度の強化に向いているSNSといえるでしょう。
また、匿名性が高い点も特徴です。多くのユーザーが本名を公表せず利用しているため、本音の口コミが多いといわれています。情報収集にも活用できるSNSです。
ただし、拡散力が高いため、悪い口コミも一瞬で広がります。1つの投稿がきっかけで、炎上して信用を失うことも考えられます。ホテル・旅館の公式発言になることを理解して運用することが大切です。
主に、画像や動画を投稿・共有するSNSです。テキストだけでは伝えにくい情報を、画像や動画でわかりやすく発信できる点が魅力です。ホテル・旅館のコンセプトを手軽に発信できます。
たとえば、客室の写真を投稿して非日常感を伝える、レストランの料理を投稿して上質さをアピールするなどが考えられます。ブランディングに適したSNSといえるでしょう。ただし、X(旧Twitter)ほどの拡散力は期待できません。シェア機能が充実していないためです。
また、画像や動画を投稿するため、公式アカウントの運用には一定の労力とスキルが求められます。イメージにそぐわない投稿をすると、ホテル・旅館の評判を落としてしまうことも考えられます。コンテンツの質にこだわることが大切です。
実名登録を原則とするSNSです。この特徴から、30代以降のビジネスパーソンが多く利用しています。ホテル・旅館がサービスをアピールしたり、顧客とコミュニケーションを図ったりできるFacebookページを開設できる点もポイントです。
予約サイトへ送客する、広告を配信するなど、さまざまな活用方法が考えられます。拡散力の高さもFacebookの特徴です。いいね!ボタンやシェアボタンを活用して投稿を手軽に拡散できます。
また、Instagramと連携することで、Instagramの拡散力も高められます(Instagramの投稿をFacebookでシェアできる)。ただし、成果につなげるまで時間がかかる傾向があります。計画的に運用していくことが大切です。
SNS広告
SNSプラットフォームに配信する広告です。画像、動画、テキストを用いて、SNSユーザーにアピールできます。具体的には、ユーザーのタイムラインなどに広告を表示します(表示場所はサービスなどで異なります)。主な特徴は、他のオンライン広告よりもターゲティング精度が高いことです。
ユーザーの属性や興味、関心をもとに、広告を配信できるため、優れた効果を期待できます。コストを抑えつつ利用できる点や広告出稿から効果測定まで手軽に行える点も魅力です。
SNSキャンペーン
ユーザーを巻き込んで展開するSNS上のイベントです。具体的な内容はケースで異なりますが、指定のハッシュタグをつけて投稿をしたユーザーに、抽選で宿泊券やお食事券をプレゼントする方法が考えられます。次の効果などを期待できます。
【期待できる効果】
- ホテル・旅館の認知度の向上
- フォロワー数の増加
- ユーザーと良好な関係を築ける
イベントがSNS上で話題になれば、ホテル・旅館の認知度が向上し、フォロワー数が増加する可能性があります。また、イベントの内容次第で、ホテル・旅館に関する口コミを増やしたりすることもできるでしょう。さまざまな目的に活用できるマーケティング手法です。
インフルエンサーマーケティング
インフルエンサーに、ホテル・旅館などをPRしてもらう手法です。具体的には、ホテル・旅館に宿泊した感想をフォロワーに発信してもらうなどが考えられるでしょう。インフルエンサーの評価は、企業の公式リリースよりも、ユーザーに刺さりやすい傾向があります。
広告色が薄く、フォロワーからの信頼が厚いためです。ホテル・旅館の認知度を高めつつ、見込み客に効果的なアピールを行える可能性があります。
ただし、起用するインフルエンサーにより、期待できる効果は異なります。ホテル・旅館と親和性の高いインフルエンサーを起用することが重要です。また、ステルスマーケティングにも注意する必要があります。
ホテル・旅館がSNSマーケティングに取り組むメリット
ホテル・旅館がSNSマーケティングに取り組む主なメリットは次の通りです。
フォロワーと直接コミュニケーションをとれる
SNSの魅力として、フォロワーとコミュニケーションを図れることがあげられます。距離感が近い点もポイントです。見込み客が求めている情報を発信しつつ、コメントに返信することで、信頼関係を構築できます。
また、これらの対応を通して、ホテル・旅館のホスピタリティもさりげなくアピールできるでしょう。
つまり、フォロワーとコミュニケーションを図りながら、顧客ロイヤルティを高められるのです。フォロワーと良好な関係を築くことで、選ばれやすいホテル・旅館になれます。
写真や動画を用いてわかりやすく訴求できる
SNSを活用すると、テキストだけでなく、写真や動画で情報を発信できます。投稿数に制限がない点も魅力です(公式サイトは掲載できる写真に限りがあります)。
たとえば、言葉では語りつくせない美しい風景を1枚の写真で伝えるなどが考えられます。動画で、その場にいるような臨場感を演出することも可能です。
したがって、ホテル・旅館の魅力を余すことなく伝えられます。投稿する写真、動画に一貫性をもたせれば、ホテル・旅館のブランド力を高められるでしょう。
広告費をかけずに始められる
SNSは、基本的に無料で利用できます(SNS広告は除く)。フォロワーとコミュニケーションを図ったり、写真や動画を使ってホテル・旅館の魅力を発信したりしてもコストはかかりません。コスト面のリスクを負わず、さまざまな取り組みを行える点もSNSマーケティングの魅力です。
モチベーションを失わなければ、自社に合ったやり方を見つけるまで、試行錯誤を繰り返せます。ホテル・旅館に与える影響を考える必要はありますが、実験的に始めることも可能です。集客施策の必要性を感じている方は、SNSマーケティングから始めるとよいでしょう。
ホテル・旅館がSNSマーケティングを成功させるポイント
残念ながら、SNSマーケティングを導入したホテル・旅館のすべてが成果を出しているわけではありません。ここでは、成功につなげるためのポイントを解説します。
目的やペルソナを絞って運用する
目的やペルソナ(ユーザー像)を設定してからSNSの運用を行います。これらの内容で、投稿するべきコンテンツの内容は異なるためです。参考に以下の例を紹介します。
ホテル | Aホテル | Bホテル |
目的 | 新規顧客の開拓 | リピーターの獲得 |
ペルソナ | 性別:女性
年齢:25歳 職業:会社員 年収:400万円 家族構成:1人暮らし 関心:SNS映えする非日常体験 | 性別:男性
年齢:51歳 職業:会社員 年収:1,200万円 家族構成:妻と子どもの3人 関心:日々の疲れを癒せる体験 |
コンテンツの例 | 夜景を楽しめる高層階確約プランの紹介 | 露天風呂付客室のこだわり |
目的、ペルソナが異なれば、投稿するべきコンテンツの内容も異なることがわかります。また、これらを設定しておくと、チームでSNSマーケティングを運用する際に、認識のズレが生じにくくなります。「何のために」「誰へ投稿するか」を明確にしておきましょう。
ユーザーとのコミュニケーションを意識する
ユーザーとのコミュニケーションを意識することが大切です。適切にコミュニケーションを図れば、顧客ロイヤルティを高められます。具体的な取り組みとして、コメントに返信する、自社に関する投稿をシェアするなどがあげられます。
お客様が見ていると考えて、1件ずつ丁寧に対応することが重要です。個別の対応が、ホテル・旅館への評価につながります。
また、ユーザーとのコミュニケーションを通して、対応できていないニーズを発見できることもあります。ユーザーのニーズを把握する手段としても有効です。
分析・検証をおこない、ユーザーに刺さる投稿を心がける
SNSマーケティングを成功に導くため、結果の分析と運用の改善が欠かせません。手軽に始められますが、成果をだすまで一定の時間がかかります。中長期的な施策と考えて、計画的に運用していくことが大切です。
結果の分析は、目的にあわせてKPIを設定しておくと行いやすくなります。達成できなかった項目の原因を分析し、運用を見直します。以上の作業を繰り返しながら、ユーザーに刺さる投稿の割合を増やしていくことが重要です。
SNSごとの特性を踏まえて差別化を考える
SNSの特性を理解し、目的に応じて使い分けることが大切です。代表的なSNSの特徴は以下の通りです。
サービス名 | 利用率(全年代) | 中心の年代 | 主なコンテンツ |
---|---|---|---|
LINE | 94.9% | 全年代 | テキスト |
X(旧Twitter) | 49.0% | 10代~30代 | テキスト |
56.1% | 10代~40代 | 画像 | |
30.7% | 30代~40代 | テキスト | |
TikTok | 87.8% | 10代~20代 | 動画 |
YouTube | 32.5% | 全年代 | 動画 |
出典:総務省「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書 <概要>」
たとえば、Instagramでは20代~30代の女性に向けて華やかな画像を投稿する、Facebookでは40代のビジネスパーソンに向けて上質なサービスを提案するなどが考えられます。各サービスの特徴に応じたコンテンツを投稿することで、効果が出やすくなります。
炎上リスクを理解し事前に対策する
SNSを運用する前に、炎上リスクを理解して、対策を講じておくことも重要です。悪意がなくても、配慮に欠けた投稿をすると、批判が殺到する恐れがあります。基本的な対策は以下の通りです。
【対策の例】
- SNSリテラシー教育を実施する
- 運用マニュアルを作成・活用する
- 投稿前に第三者がチェックする体制を整えておく
これらの対策を講じても、炎上してしまうことがあります。被害を食い止めるため、事前に火消しの方法を確かめておくことも欠かせません。ソーシャルリスニングを活用すれば、炎上の初期段階で気付ける可能性があります。
専任チームで長期的に運用する
SNSマーケティングには、一定の時間と労力がかかります。業務の合間に行うこともできますが、コンテンツのブラッシュアップや結果の分析と改善などを十分に行えないため、成果を出しにくい傾向があります。
したがって、専任チームを立ち上げて、長期的な視点で運用していくことが大切です。スタッフ1人での運用も積極的にはおすすめできません。業務が属人化しやすいためです。担当者が不在になると、これまで通りの対応を行えなくなってしまいます。
ホテル・旅館がSNSマーケティングを失敗させるパターン
ここからは、ホテル・旅館が注意したいSNSマーケティングの失敗パターンを紹介します。
更新頻度が低くコンテンツが少ない
更新が著しく少ないと、期待している結果を得にくくなります。ユーザーに接触する機会が限られるためです。また、見るべきコンテンツが少ないと、ユーザーからフォローされる可能性も低くなります。
わざわざフォローする必要はないと評価されるためです。時間をかけてコンテンツの質を高めることは重要ですが、一定の更新頻度も保つ必要があります。訪れたユーザーが最新の情報を得られるよう、SNSアカウントを運用しましょう。
顧客目線での投稿ができていない
ユーザーが求めている情報を提供できていない場合も、期待している結果を得られません。投稿を繰り返しても、ユーザーのニーズを満たせないためです。顧客目線で考えると、価値のないコンテンツといえます。
具体例として、安価で宿泊できるビジネスホテルが、カップルで楽しめる近隣のデートスポットを紹介しているなどがあげられます。見込み客にとって、この情報は有益ではない可能性が高いでしょう。
有益な情報を得られないと、投稿を見かけてもフォローには至りません。ユーザー像を踏まえて、ニーズにマッチした情報を定期的に配信することが大切です。
魅力が伝わる写真や動画が掲載されていない
一定の更新頻度を保っていても、コンテンツの質が低いと、ユーザーに期待している行動を促せません。SNSマーケティングでは、量と質のバランスが求められます。質の低いコンテンツの例として以下の投稿があげられます。
【質の低い投稿の例】
- ホテル・旅館の魅力を伝える写真や動画を掲載していない投稿(写真・動画の必要性が認められる場合)
- 本来の魅力を伝えられていない写真や動画を掲載している投稿
質の低い投稿は、見込み客の印象を損ねる可能性があります。宿泊を検討していた見込み客が、投稿をきっかけに他のホテルを選ぶこともあるでしょう。写真や動画を活用して、ホテル・旅館の魅力を適切に伝えることが大切です。
ホテル・旅館の集客施策にSNSマーケティングを活用しましょう
ここでは、ホテル・旅館が取り組むべきSNSマーケティングについて解説しました。SNSが情報収集の手段として浸透しているため重要性が高まっています。SNSマーケティングの主なメリットは、ユーザーとコミュニケーションを図れること、ホテルの魅力を正しく伝えられることです。
運用にあたっては、更新頻度やコンテンツの質に気をつける必要があります。具体的な手段として、SNS公式アカウントの開設、SNS広告の活用などがあげられます。集客施策のひとつとして、SNSマーケティングに取り組んでみてはいかがでしょうか。
コラム監修者

<略歴>
- 日本47都道府県制覇を5回達成した後、高級宿泊予約サイト「一休.com」に入社。
- 旅館・リゾートホテルチームの営業と、バケーションレンタル事業の営業責任者を兼務し、ラグジュアリー領域を二刀流で経験
- 2023年7月に株式会社宿夢の取締役副社長に就任。
弊社「宿夢」は、旅館・ホテル業界の課題解決に特化したコンサルティング会社として、業界の専門知識を活かし、宿泊施設の経営改善をサポートしています。
私たちの目指すのは、旅館・ホテル様それぞれが描く夢を実現すること。
そのために"宿のお困りごとは宿夢へ"をテーマに宿の総合商社を目指しております。