- コラム
2025.07.31
旅館経営を始めるには?基本的な仕事内容や必要な許認可を解説

旅館経営には、多くの人が一度は憧れを抱く魅力があります。
しかし、その一方で、開業までにはどのような準備や手続きが必要で、どれくらいの資金がかかるのか、具体的なイメージを持てずにいる方も多いのではないでしょうか。
旅館経営は、単に「おもてなしが好き」という気持ちだけでは成り立たない、専門的な知識と計画性が求められる事業です。旅館業法をはじめとする法律を遵守し、多岐にわたる許認可を取得し、莫大な初期投資と運転資金を準備する必要があります。
この記事では、これから旅館経営を始めようと考えている方、あるいは既に経営に携わっているものの基本に立ち返りたいという方に向けて、旅館経営の始め方から、必要な資金、許認可、そして経営を軌道に乗せるための仕事内容まで、網羅的に解説していきます。
目次
Toggle旅館経営の始め方

旅館経営を始めるには、いくつかの法的な手続きを正しい順序で踏んでいく必要があります。
思い描く旅館を実現するため、まずはそのロードマップをしっかりと確認しましょう。
手順①自治体の旅館業法窓口に相談する
旅館経営を思い立ったら、まず最初に行うべきは、旅館を建設または営業する予定の地域を管轄する自治体の「旅館業法担当窓口(通常は保健所)」への事前相談です。
この段階で、どのような旅館を建てたいのか、具体的な事業計画や施設の構想、図面などを持参して相談します。
自治体の担当者は、その計画が旅館業法や建築基準法、消防法などの基準に適合しているか、専門的な視点からアドバイスをしてくれます。この事前相談を丁寧に行うことで、後の手戻りを防ぎ、スムーズに手続きを進めることができます。
旅館業法とは
旅館業法は、宿泊施設の衛生管理や宿泊者の安全確保などを目的として定められた法律です。
この法律では、旅館業を「旅館・ホテル営業」「簡易宿所営業」「下宿営業」の3つに分類しており、それぞれの業態で施設の構造設備に関する基準(客室の延床面積、玄関帳場(フロント)の設置、入浴設備、トイレの数など)が細かく定められています。
旅館経営を行うには、この旅館業法が定める基準を全てクリアすることが絶対条件となります。
手順②旅館業営業許可申請書と申請手数料を提出する
事前相談で計画の方向性が固まったら、正式に「旅館業営業許可申請書」を保健所に提出します。
申請時には、2万円から3万円程度の申請手数料が必要です。この申請書には、建物の構造設備を明らかにするための様々な書類を添付する必要があります。必要書類は自治体によって異なりますが、一般的には以下のようなものが求められます。
- 営業施設の構造設備を明らかにする図面(平面図、立面図、断面図、給排水設備図など)
- 建物の検査済証の写し
- 消防法令適合通知書
- 法人の場合は定款または寄付行為の写し及び登記事項証明書
- 周辺の見取り図
これらの書類を不備なく揃えて提出することが、許可取得までの時間を短縮する上で重要です。
手順③建物の建設と内装工事を行う
営業許可の申請と並行して、あるいは申請後、建物の建設や内装工事に着手します。事前相談や申請時に提出した図面や計画通りに工事を進めることが重要です。
もし工事の途中で計画に大きな変更が生じた場合は、その都度、保健所の担当者に相談し、指示を仰ぐ必要があります。
この段階では、旅館業法だけでなく、建築基準法や消防法など、関連する全ての法律を遵守した施工が求められます。
手順④保健所と消防署による立ち入り調査を受ける
建物が完成すると、保健所の担当者による実地の立ち入り調査が行われます。この調査では、申請された図面通りに施設が作られているか、換気や採光、浴室やトイレの設備などが、旅館業法の構造設備基準をしっかりと満たしているかが厳しくチェックされます。
また、同時に消防署の担当者による査察も行われ、消火器や自動火災報知機、誘導灯といった消防用設備が、消防法の基準に従って正しく設置・作動するかを確認します。これらの調査で指摘事項があれば、改善した上で再検査を受ける必要があります。
手順⑤営業許可証の交付を受ける
保健所と消防署、両方の立ち入り調査を無事にクリアし、全ての基準を満たしていることが確認されると、ようやく「営業許可証」が交付されます。
この許可証を受け取った日から、旅館としての営業を開始することができます。自治体によって異なりますが、一般的に、営業許可申請書が正式に受理されてから、この許可証が交付されるまでには、数週間から1ヶ月程度の期間がかかります。この期間も考慮に入れた上で、開業までのスケジュールを組むことが大切です。
旅館経営に必要な初期費用

旅館経営を始めるには、多額の初期費用が必要となります。その金額は、物件を新築するのか、既存の建物を改修するのか、また立地や施設の規模・グレードによって大きく変動しますが、一つの目安として、最低でも1,500万円程度は見ておく必要があるでしょう。
主な内訳としては、土地・建物の取得費用または賃貸契約の初期費用、旅館業法の基準を満たすための内外装の工事・改修費用、厨房設備や寝具、客室備品などの購入費用、そして営業許可などを取得するための申請費用などが挙げられます。
もし、デザイン性の高い内装にしたり、露天風呂付き客室のようなハイクラスな設備を導入したりと、コンセプトにこだわりたいのであれば、初期費用は3,000万円以上にのぼることも珍しくありません。
自己資金でどこまで賄い、どこから資金調達を行うのか、詳細な事業計画と資金計画を立てることが不可欠です。
初期費用を準備する方法

高額な初期費用を全て自己資金で準備するのは容易ではありません。
多くの場合、外部からの資金調達を組み合わせることになります。主な方法として、以下の二つが挙げられます。
出資を受ける
出資とは、事業の将来性に共感した個人投資家やベンチャーキャピタルなどから、事業の株式(持分)の一部を渡す対価として資金を提供してもらう方法です。
融資とは異なり、返済の義務がないのが最大のメリットです。また、経営ノウハウを持つ投資家からアドバイスを受けられるといった利点もあります。ただし、経営の自由度が制約されたり、期待通りの成果が出せない場合に厳しい責任を問われたりする可能性もあります。魅力的な事業計画を提示し、投資家を納得させることが求められます。
金融機関から融資を受ける
金融機関から事業資金を借り入れる、最も一般的な資金調達方法です。民間の銀行や信用金庫のほか、政府系金融機関である日本政策金融公庫は、新たに事業を始める人向けの「新規開業資金」などの融資制度を設けており、比較的低い金利で借り入れができる可能性があります。
融資を受けるには、事業の収益性や将来性を具体的に示した、説得力のある事業計画書の提出が不可欠です。金融機関は、その計画を基に、貸し付けた資金が確実に返済されるかを厳しく審査します。
旅館経営に必要な許認可
旅館を経営するには、根幹となる旅館業営業許可のほかにも、提供するサービスの内容に応じて、様々な許認可の取得や届出が必要になります。これらを怠ると罰則の対象となるため、漏れなく確認しましょう。
旅館営業許可
これは旅館経営の根幹となる許可で、保健所から取得します。旅館業法では、施設の規模や構造によって「旅館・ホテル営業」「簡易宿所営業」「下宿営業」に分類されます。和式の構造で、客室の総床面積が33㎡以上、5室以上といった一定の基準を満たす施設が「旅館・ホテル営業」に該当します。施設の面積や構造によっては、「簡易宿所営業」などに該当する可能性もあるため、事前相談の段階でどの業態になるのかを確認することが重要です。
食品衛生責任者
食事を提供する施設では、必ず「食品衛生責任者」を1名以上置かなければなりません。食品衛生責任者は、調理師や栄養士などの資格を持っていればなれますが、資格がない場合でも、各都道府県が実施する養成講習会を受講することで資格を取得できます。施設の衛生管理を担う重要な役割です。
飲食店営業許可(食品営業許可)
宿泊客に朝食や夕食といった食事を提供する場合は、保健所から「飲食店営業許可」を取得する必要があります。厨房施設が、広さやシンクの数、換気設備、手洗い設備など、食品衛生法で定められた基準を満たしていることが許可の条件となります。
酒類販売業免許
レストランや客室で、瓶ビールや日本酒など、栓を開けていない状態のお酒を有料で提供(販売)する場合には、税務署から「酒類販売業免許」を取得する必要があります。食事と共にグラスで提供するだけであれば不要ですが、客室の冷蔵庫にミニバーを設置する場合などは、この免許が必要になるケースがあります。
公衆浴場許可
旅館内の大浴場を、宿泊客だけでなく、日帰り入浴などで宿泊しない外部の利用者にも開放する場合は、保健所から「公衆浴場許可」を取得する必要があります。この許可を得るには、浴槽の大きさや洗い場の数、脱衣所の設備など、公衆浴場法が定める、より厳しい基準をクリアしなければなりません。
旅館経営に役立つ資格
旅館経営を行う上で、法律的に必須となる資格は、前述の食品衛生責任者など一部に限られます。しかし、持っていることで経営や実務に大いに役立つ資格も数多く存在します。
消防設備士
消防設備士は、消火器やスプリンクラー、自動火災報知機といった消防用設備の点検・整備を行える国家資格です。旅館では、定期的な消防用設備の点検が義務付けられていますが、この資格があれば、外部の業者に委託せず、自社で点検を行うことが可能になり、コスト削減に繋がります。
危険物取扱者
旅館の暖房や給湯で、灯油などのボイラー燃料を大量(指定数量以上)に貯蔵・使用する場合には、「危険物取扱者」の国家資格を持つ従業員を置く必要があります。施設の規模や設備によっては必須となる可能性がある資格です。
税務・会計系の資格
日商簿記検定などの資格は、日々の経理業務や財務諸表の作成・分析に直接役立ちます。旅館の経営状況を数字で正確に把握し、的確な経営判断を下すための基礎体力となります。
経営系の資格
中小企業診断士などの資格は、経営戦略の立案、マーケティング、組織管理といった、経営全般に関する体系的な知識を証明するものです。論理的な思考に基づいた事業計画の策定や、金融機関からの融資を受ける際の交渉にも有利に働くでしょう。
語学系の資格
インバウンド観光客の増加に伴い、語学力の重要性はますます高まっています。TOEICや実用英語技能検定などの資格は、外国人観光客への対応力を示す指標となります。多言語でのコミュニケーションが円滑に行えれば、顧客満足度の向上に大きく貢献します。
サービス・マナー関連の資格
サービス接遇検定やホテルビジネス実務検定(H検)などの資格は、質の高いおもてなしを提供するための知識やスキルを証明するものです。従業員の教育研修に活用することで、旅館全体のサービスレベルの向上を図ることができます。
旅館経営に必要なシステム
現代の旅館経営において、ITシステムの活用は、業務の効率化と収益の最大化を図る上で不可欠となっています。特に、以下の3つのシステムは「三種の神器」とも言える重要なツールです。
販売予約チャネル
顧客が宿泊予約をするための窓口となるのが、販売予約チャネルです。これには、楽天トラベルやじゃらんnetといった「OTA(オンライントラベルエージェント)」と、自社で運営する「公式サイトの予約エンジン」があります。OTAは絶大な集客力を持ちますが、販売手数料がかかります。
一方で、公式サイトからの直接予約は利益率が高いというメリットがあります。この両者をいかにバランス良く活用するかが、集客戦略の鍵となります。
サイトコントローラー
複数のOTAと公式サイトの予約在庫を一元管理するためのシステムです。サイトコントローラーを導入することで、あるチャネルで予約が入ると、他の全てのチャネルの在庫が自動的に減るため、ダブルブッキング(予約の重複)を防ぐことができます。また、料金改定も一括で行えるため、予約管理の手間を劇的に削減し、機会損失を最小限に抑えることができます。
ホテルPMS
PMS(Property Management System:宿泊管理システム)は、予約管理、顧客情報、客室管理、会計処理といった、旅館のフロント業務全般を統合的に管理する基幹システムです。顧客の過去の宿泊履歴や好みを記録・共有することで、よりパーソナルなおもてなしを提供することが可能になります。
また、売上データや稼働率などの経営指標をリアルタイムで可視化し、迅速な経営判断をサポートする役割も担います。
旅館経営の仕事内容
旅館経営者の仕事は、お客様をおもてなしする現場の仕事だけにとどまりません。
旅館という一つの事業を動かしていく、多岐にわたる経営管理業務が求められます。
各部門のオペレーションの管理
フロント、客室清掃、調理、接客など、旅館は様々な部門の連携によって成り立っています。経営者は、各部門のスタッフが円滑に業務を遂行できるよう、人員配置やシフト管理、業務マニュアルの整備、従業員の教育・育成などを行います。
全部門の状況を常に把握し、旅館全体として質の高いサービスを提供できる体制を維持することが重要な役割です。
旅館のマーケティング
旅館の魅力を外部に発信し、顧客を呼び込むためのマーケティング活動も、経営者の重要な仕事です。どのような顧客層をターゲットにするかを定め、OTAや公式サイト、SNSなど、どのチャネルを使ってアピールしていくか、戦略を立てます。
宿泊プランの企画や料金設定、広告宣伝活動、口コミへの返信など、集客に関わるあらゆる活動を主導し、その効果を分析して次の施策に繋げていきます。
設備の維持管理
お客様に安全で快適な空間を提供するためには、建物や設備の維持管理が欠かせません。客室や浴場、厨房などの日常的な清掃・点検はもちろんのこと、経年劣化した設備の修繕や、より魅力的な施設にするためのリニューアル計画などを立案・実行します。
長期的な視点に立った修繕計画を立て、必要な資金を確保しておくことも、経営者の重要な資金繰りの一環です。
旅館経営の現状
旅館経営を取り巻く環境は、決して楽観視できるものではありません。帝国データバンクの調査によると、2023年度の旅館・ホテルの倒産件数は100件を超え、過去20年で最多水準に達しています。後継者不足や施設の老朽化、物価高騰によるコスト増などが、多くの旅館を苦しめているのが現状です。
しかし、その一方で、明るい兆しもあります。同調査では、2024年度の業績見通しについて、旅館・ホテルの3割超が「増収」を見込んでいると回答しています。これは、新型コロナウイルスの5類移行に伴う国内旅行需要の回復と、円安を背景としたインバウンド(訪日外国人客)需要の急増が大きな要因です。
このことから、厳しい競争環境ではあるものの、変化する顧客ニーズやインバウンド需要を的確に捉え、魅力的なサービスを提供できる旅館には、大きな成長のチャンスがあると言えるでしょう。
旅館経営者の平均年収
旅館経営者の年収に関する公的な統計データは存在しませんが、一般的には、施設の規模や収益性によって大きく異なると考えられます。個人経営の小規模な旅館の場合、経営者の年収は300万円~500万円程度が一つの目安とされています。これは、日本の全産業の平均給与と比較すると、決して高い水準とは言えません。
旅館経営は、売上から人件費や仕入れ費、施設の維持管理費など多くの経費を差し引いたものが利益となり、そこから経営者の報酬が決まります。そのため、安定した収益を上げ、経費を適切にコントロールする経営手腕が、自身の年収に直接反映される、シビアな世界であると認識しておく必要があります。
旅館経営は苦労も多いが魅力ある事業
旅館経営は、日本の伝統文化である「おもてなし」を体現できる、非常にやりがいのある事業です。しかし、その実現までには、旅館業法をはじめとする数多くの法的な手続きや、多額の資金調達、そして多様な許認可の取得といった、幾つもの高いハードルを越えなければなりません。
また、無事に開業できたとしても、そこがゴールではありません。激化する競争環境と、物価高騰などの厳しい経営環境の中で、安定した収益を上げ続けるためには、日々のオペレーション管理から、マーケティング、財務、施設管理まで、幅広い知識とスキルが求められる、まさに「経営」そのものです。
「何から手をつければいいかわからない」「事業計画に自信が持てない」「開業後の運営が不安だ」…もし、あなたがそのような悩みを抱えているのであれば、独りで抱え込まずに、専門家の力を借りることも有効な選択肢の一つです。
宿夢は、旅館・ホテル業界に特化したコンサルティングサービスを提供しています。 これまで培ってきた豊富な知見と業界データに基づき、事業計画の策定から資金調達のサポート、開業準備、そして運営開始後の集客戦略や業務改善まで、あなたの旅館経営のあらゆるフェーズにおいて、成功へと導くための伴走支援を行います。夢の実現に向けて、ぜひ一度、私たちにご相談ください。
コラム監修者

<略歴>
- 日本47都道府県制覇を5回達成した後、高級宿泊予約サイト「一休.com」に入社。
- 旅館・リゾートホテルチームの営業と、バケーションレンタル事業の営業責任者を兼務し、ラグジュアリー領域を二刀流で経験
- 2023年7月に株式会社宿夢の取締役副社長に就任。
弊社「宿夢」は、旅館・ホテル業界の課題解決に特化したコンサルティング会社として、業界の専門知識を活かし、宿泊施設の経営改善をサポートしています。
私たちの目指すのは、旅館・ホテル様それぞれが描く夢を実現すること。
そのために"宿のお困りごとは宿夢へ"をテーマに宿の総合商社を目指しております。
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