- コラム
2025.12.05
ホテルの利益率とは?種類・計算方法と実践したい7つの施策
ホテル経営を安定させるには、利益率に注目することが欠かせません。
中には「現状のやり方をこのまま継続してよいか判断できない」「稼働率は高いのに利益が安定しない原因がわからない」と感じる施設もあるでしょう。
こうした悩みは、利益率を理解することで解消の可能性があります。
ここではホテルの利益率について詳しく知りたい方のため、基本や計算方法、どのように高めればいいのかなどを解説します。
この記事を読むことで利益率の概要を理解し、次に取るべき行動を判断できるようになります。
ぜひご活用ください。
目次
Toggleホテルの利益率とは
そもそも、ホテルの利益率とは売上に対してどの程度の利益が出ているかを示す指標です。
単に満室状態が続いて売上が大きくても、利益率が高いとは限りません。
ホテル業界は固定費が高く、季節変動の影響を受けやすいため、売上が大きくとも人件費や光熱費、リネン代などのコストが嵩む場合があります。
この結果、「売上はあるのに経営が安定しない」といった状況が発生することもあります。
利益率の種類と計算方法
ホテルが確認すべき利益率には、「売上高営業利益率」「売上高総利益率」「経常利益率」の3種類があります。
これらを確認することで、コストが膨らみやすい段階など、収益に大きく影響を与えている部分を把握できます。
ここではそれぞれの概要と計算方法について解説します。
売上高営業利益率
売上高営業利益率は、ホテルの利益状況を把握するための基本的かつ重要な指標です。
営業活動によって得られた利益が、売上高の何%を占めているのかを調べるのに使用します。
また、コスト管理や価格設定の妥当性を判断する際にも役立ちます。
経営改善の必要性を判断する際には、次の計算式で売上高営業利益率を確認しましょう。
計算式「売上高営業利益率=営業利益÷売上高×100」
たとえば、売上高が1億円、営業利益が1,000万円であれば、売上高営業利益率は10%となります。
売上高営業利益率が低い場合、以下のような理由が考えられます。
【売上高営業利益率が低くなる主な理由】
- 変動費が増加している
- 販売単価が適切ではない
- 運営効率が低下している
- 人件費が高い
- 光熱費・水道代が高騰している
稼働率に対して営業利益率が低い場合は、現場で問題となっているポイントがないか確認し、改善につなげていくことが重要です。
売上高総利益率
売上高総利益率とは、売上から原価や仕入れを差し引いた粗利益の割合を示す指標です。
つまり、サービスを販売したことによって得られた直接的な利益のことです。
計算式は以下となります。
計算式「売上高総利益率=売上総利益÷売上高×100」
一般的に、卸売業は売上高総利益率が高い傾向にある一方、ホテル業は人件費の割合が大きく、売上高総利益率は比較的低くなります。
ただし、低すぎる場合は原因を特定しましょう。
以下のような可能性があります。
【売上高総利益率が低くなる主な理由】
- リネン・アメニティ・清掃費などの原価が高額
- 食品・備品などの在庫ロスや廃棄が多い
- 食材費が高騰している
売上高総利益率が低い場合は、収益性の高い商品やサービスを十分に提供できていない可能性があります。
経常利益率
経常利益率とは、企業全体の収益力を示す指標であり、利益水準を把握するために用いられるものです。
たとえば、別館やスパなどを運営している場合は、それらの事業も含めて利益を算出します。
計算式「経常利益率=経常利益÷売上高×100」
【経常利益率が低くなる主な理由】
- 設備などの投資負担が大きくなっている
- 別館・スパといった関連事業が赤字になっている
- 為替変動の影響を受けている
- 借入金が多く、利息負担が重い
売上高総利益率に問題がなくても、経常利益率では課題が見つかるケースもあります。
そのため、利益率について検討する際は、どれか一つだけを見るのではなく、複数の指標を総合的に算出し、比較・判断することが重要です。
ホテル業界の利益率の目安
ホテル業界の利益率は、どの程度を基準とするか把握しておく必要があります。
施設のタイプによって大きく異なり、目安は以下の通りです。
【タイプ別利益率の目安】
- ビジネスホテル:10~12%
- シティホテル:9~11%
- 旅館:9~11%
- リゾートホテル:8~10%
- 民泊:10~30%
- グランピング:30~50%
上記の目安と比較して、自社の利益率が低い場合には、何らかの対策を講じる必要があります。
ビジネスホテルはシンプルなサービス構造であることに加え安定した出張需要があり、稼働率も同様に安定しやすいことから利益率は高めとなっています。
一方で、シティホテルや旅館、リゾートホテルは人件費や食材費の割合が高く、利益率は低くなる傾向があります。
民泊については、固定費が少なく済む傾向もあり、高い利益率が期待できます。
近年人気が高まっているグランピングについては、運営が安定すれば、利益水準が50%に近づくケースもあります。
従来とは異なる豪華な設備や新たな魅力が注目されており、客単価の高さや限定的なランニングコストが、高利益を期待できる要因となっています。
ホテルの利益は主にどのように上がる?
ホテルの利益を大きく左右するのが、宿泊・飲食・宴会の3つの部門に関連することです。
たとえば宿泊部門で大きな利益を確保できていても、他の部門で赤字が生じていると、総合的な利益の確保にはつながりません。
可能な限り全ての部門で利益を確保できるように取り組む必要があります。
ここでは、ホテルの主要3部門における利益について解説します。
宿泊部門
宿泊部門は、ホテルのメインともいえる収益源です。
収益のうち大半を占めており、売上拡大や利益率向上を図るためには、宿泊部門で安定した収益を確保することが重要です。
利益率は60%以上、可能であれば70%以上を目指しましょう。
宿泊部門の収益は、価格設定と稼働率によって大きく変動します。
しかし、両者は、一方を優先するともう一方が低下しやすい特徴があるため、慎重な判断が求められます。
宿泊部門における主な支出は、フロントや清掃スタッフにかかる人件費と、リネンやアメニティなどの消耗品費です。
人件費を抑えるためには、適切な人員配置がポイントになります。
また、清掃の効率化やアメニティの最適化などにも取り組みましょう。
固定費の割合が大きいこともあり、稼働率を安定させるための取り組みが求められます。
飲食部門
飲食部門は、レストランやバー、カフェ、ルームサービスなどが該当する部門です。
宿泊者の満足度に大きく影響する部門ですが、原価率が高いため、利益率の目安は約20%とされています。
特に、レストランをビュッフェ形式で提供する場合は、食材の種類を多く揃える必要があり、食品ロスも発生しやすくなります。
食品ロスの管理が不十分な場合、利益が圧迫されやすくなります。
料理の品質に力を入れようと考えるとどうしても食材費がかかることになるので、できる限りロスを出さないための対策が重要です。
宿泊者以外も利用できる形でレストランやバーを運営することで、売上の安定につながります。
宴会部門
宴会部門は売上規模が大きくなりやすく、宴会のほかにイベントなども含まれる部門です。
会場の利用料も宴会部門の収益に含まれます。
事前に参加人数やメニューが確定するため、人員配置を調整しやすく、食品ロスも発生しにくいことから、利益率の目安は約50%となっています。
大口の利益を計上しやすい部門であるため、宴会部門を強化する取り組みが重要です。
ただし、コロナ禍のような事態が起こると一気に売上が落ちやすい部門でもあります。
宴会部門への過度な依存は、社会情勢の変化により収益が不安定になるリスクがあるため、注意が必要です。
ホテルの利益率を高める施策
ホテルの利益率を高めるためには、さまざまな施策があります。
ここでは、特に効果が期待できる7つの施策について解説します。
集客戦略を立てる
集客戦略を構築し、稼働率を向上させましょう。
そのためには、予約が入りやすい反面、手数料負担が大きいOTAに過度に依存しない集客体制を築くことが重要です。
直販サイトの改善や予約導線の最適化、限定プランの設定などにより、安定した収益基盤を構築することが求められます。
客室単価を高める工夫をする
利益と直接的に関連している客室単価向上のための取り組みも必要です。
ただ単価を高くするだけでは顧客離れにつながります。
客室単価を引き上げる際は、料理の品質向上やチェックアウト時間の延長といった、価格に見合う価値を付加することが必要です。
顧客単価の向上を図る
1人当たりの利用額の向上を図ることで、利益が伸びます。
スパやアクティビティの利用促進、売店商品の拡充など、付帯サービスの強化が顧客単価の向上につながります。
チェックイン時に併設施設を案内したり、館内ポップなどで情報を届けたりするのも有効です。
リピーターをつくる
利益率安定のために重要となるのが、リピーターの存在です。
新規顧客獲得には広告費がかかりますが、リピーターを獲得できれば単価も上がりやすい傾向があります。
次回利用割引の提供、DMの送付、季節イベントの案内などに加え、丁寧な接客により滞在中の満足度を高めることも重要です。
業務を効率化する
ホテルの経費は人件費が占めている割合が高いため、業務効率化による人件費削減は利益率を大きく向上させることがあります。
業務効率化に資するPMS(ホテル管理システム)やサイトコントローラーを導入していない場合、それらを活用することで業務効率の向上および人件費の削減が期待できます。
変動費を見直す
アメニティ費、食材費、リネン費などの変動費を適切に管理することで利益率を伸ばせます。
使い方・使われ方を調べ、どこでムダが出ているのか明確にしましょう。
ただし、顧客満足度を損なう可能性がある変動費削減は避ける必要があります。
内製と委託のバランスを最適化する
内製化によるコスト負担が高くなりがちな領域は、委託も選択肢となります。
しかし、サービス品質にはこだわりましょう。
外部に任せられない重要なポイントは内製化の方が適しています。
内製と委託の最適な組み合わせは施設ごとに異なるため、自社の運営体制に適した方法を検討することが重要です。
ホテルの利益率向上に活用できる3つの指標
ホテルの利益率を向上させるには、「客室稼働率(OCC)」「平均客室単価(ADR)」「RevPAR」といった3つの指標を理解しておくことが重要です。
それぞれ解説します。
客室稼働率(OCC)
客室稼働率(OCC:Occupancy Rate)とは、実際に稼働している客室数が販売可能な客室数に対してどれほどの割合を占めるかを示す指標です。
計算式は次の通りです。
「客室稼働率(%)=(宿泊された客室数 ÷ 販売可能な客室数) × 100」
あくまで客室の稼働率のみを確認するための指標であるため、宿泊者以外の利用による収益比率が高い施設では客室稼働率が低くても利益率が高い場合があります。
一方で、ビジネスホテルのように宿泊に特化した施設では客室稼働率の高さを重視しましょう。
平均客室単価(ADR)
平均客室単価(ADR:Average Daily Rate)とは、客室一室あたりの平均販売価格です。
以下の式で計算できます。
「客室平均単価(円)=売上÷宿泊された客室数」
単価が上がれば利益率も伸びやすいので、重要な指標です。
また、客室稼働率が高くても平均客室単価が低い場合は、利益率が伸びにくくなります。
RevPAR
RevPAR(レヴパー)は「Revenue Per Available Room」の略で、宿泊可能な客室1部屋あたりの収益を指します。
以下で計算可能です。
「RevPAR=客室稼働率(OCC)×平均客室単価(ADR)」
稼働率と単価の両方を掛け合わせた総合的な指標でもあります。
ホテルの収益性を正確に示す数値であることから定期的にRevPARを確認し、改善が必要なポイントを見極めていきましょう。
利益率を効率的に向上させるためには?
利益率を効果的に向上させるための施策は複数あり、各施設で課題となっている部分を解決しながら適切な方法を選択していく必要があります。
独自の判断で対応するよりも、専門家のアドバイスを取り入れることで、より適切な改善が可能です。
宿泊施設のコンサルティング会社に相談することで、細やかなデータ分析や販売戦略、価格設定、オペレーションの改善など、さまざまな部分を総合的に判断したうえで課題解決のアドバイスが受けられます。
特に自社で対応してみたものの思うような結果につながっていないケースでは、専門家へ相談することは効率的な選択肢の一つです。
外部サポートを利用しながら利益率向上を目指そう
いかがだったでしょうか。
ホテルの利益率とは何か、高めるにはどのような方法があるのかなどについて解説しました。
目安とすべき数字についてもご理解いただけたのではないでしょうか。
ホテルの利益率は複数の要素が絡み合って決まるため、改善すべきポイントが明確にならず、苦戦するケースもあります。
利益率改善に関するお悩みを抱えている方は、旅館・ホテルのコンサルティング会社「宿夢」にご相談ください。
宿の総合商社としてこれまでに培った幅広いノウハウにより課題を見極め、利益率向上をサポートいたします。
コラム監修者
<略歴>
- 上智大学を卒業
- 大手企業向けERPシステムの開発・販売・サポートを行う企業に就職
- 経営資源に関するノウハウを培った後に、高級宿泊施設の予約サイトを運営する「株式会社一休」に転職。高級旅館・ホテルを累計300施設以上担当。
- 同時に、新サービス「一休.comふるさと納税」を2名で立ち上げ、初年度から事業の黒字化に成功。事業部長に就任し、事業をさらに急成長させた。
株式会社宿夢に参画してからは、1年で企業規模を倍にさせることに成功し、COOに就任。
<メディア掲載>
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