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2025.12.26

ホテル経営の課題とは?宿泊業界の問題の解決策と事例も紹介

ホテル経営は、インバウンド需要の回復という明るい兆しがある一方で、以前にも増して複雑な構造的課題に直面しています。 多くの施設が、売上は回復しても利益が残らない、人が足りずに客室をフル稼働させられないという深刻なジレンマを抱えているのが現状です。 本記事では、ホテル経営者が今まさに直面している主要な課題を整理し、DX導入や組織改革の視点から解決策を成功事例とともに解説します。 先行き不透明な時代において、持続可能な強い経営体制を築くためのヒントとしてお役立てください。

ホテル経営の課題とは

ホテル経営には、業界特有の収益構造や労働環境に起因する難題がいくつか存在します。 これらを早期に特定することが、安定経営の第一歩です。
  • 人手不足に陥っている
  • 売上はあるのに収益性が低い
  • 景気や社会情勢の変化に左右されやすい
それぞれの課題について、詳しく解説します。

人手不足に陥っている

深刻な人手不足は、ホテル経営における最大のリスク要因です。 帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2022年7月)」によると、旅館・ホテルの約7割が正社員不足を感じており、これは全業種の中でも突出した高さです。 清掃やフロント業務を回す人員が確保できないため、需要があるにもかかわらず客室稼働率を意図的に下げざるを得ない「売り止め」が発生します。 本来得られるはずの大きな売上を逃すケースが後を絶ちません。 採用難易度は年々上昇しており、既存スタッフへの業務負担集中による離職の連鎖も深刻な懸念材料といえます。

売上はあるのに収益性が低い

宿泊業は、固定費がかさみ利益が残りにくいビジネスモデルに陥りやすい産業です。 建物や設備の維持管理費、高騰する光熱費、そして人件費といった固定費の割合が極めて高くなります。 これは、損益分岐点が高止まりしやすい構造にあるからです。 さらに、近隣競合との価格競争に巻き込まれると、客室単価(ADR)が低下します。 たとえ高稼働率を維持できたとしても、手元に利益がほとんど残らない状況になるのが問題点といえます。 この高コスト体質からの脱却こそが、長期的な経営存続の鍵です。 収益構造の改革なしには、将来への再投資もままならないでしょう。

景気や社会情勢の変化に左右されやすい

外部環境の変化が経営を直撃しやすい点も、宿泊業が抱える脆弱さの1つです。 季節変動による繁忙期と閑散期の売上差が激しく、キャッシュフローの安定化が困難です。 また、感染症の世界的流行のような、自社の努力だけではコントロールできない要因で売上が蒸発するリスクを常に抱えています。 この不確実性が、大規模なリニューアルやシステム投資といった、本来必要な中長期的な経営判断を躊躇させる要因です。

ホテルの課題を放置していると起こるデメリット

課題への対応を先送りにしていると、現場の疲弊や集客力の低下といった実害が表面化します。 ここから、具体的にどのようなデメリットが生じるのか見ていきましょう。
  • アナログ業務で残業とヒューマンエラーが増えやすい
  • Web・SNS集客が弱く口コミと指名予約を伸ばしにくい
それぞれ解説します。

アナログ業務で残業とヒューマンエラーが増えやすい

フロントでの記帳や清掃指示が紙ベースのままだと、転記ミスや連絡漏れが頻発します。 予約情報の確認に手間取り、ダブルブッキングなどの重大なトラブルを招くおそれもあるでしょう。 非効率な作業はスタッフの長時間労働を常態化させ、モチベーション低下や離職の原因にもつながりかねません。 正確性とスピードが求められる現代のホテル運営において、アナログ依存は大きな足かせとなります。

Web・SNS集客が弱く口コミと指名予約を伸ばしにくい

公式サイトやSNSでの発信力が弱いと、集客をOTA(宿泊予約サイト)に過度に依存せざるを得なくなります。 高額な送客手数料によって利益が圧迫されるだけでなく、他施設と価格だけで比較されやすいのが難点です。 また、ホテルのコンセプトや魅力が十分に伝わらないため、「このホテルに泊まりたい」という指名買いが起きにくくなります。 リピーターや良質な口コミの獲得機会を損失することになるでしょう。 自社チャネルの強化は、利益率向上に不可欠な要素です。

ホテルにおける課題の対処法とメリット

課題解決には、デジタル技術の活用と市場変化への適応が不可欠です。 これらは業務効率化と売上拡大の両輪となります。
  • DXやPMSで業務を見える化するとオペレーション改善が進みやすくなる
  • インバウンド対応を強化すると新しい顧客層の売上を取り込みやすくなる
それぞれのメリットを解説します。

DXやPMSで業務を見える化するとオペレーション改善が進みやすくなる

PMS(宿泊管理システム)や自動チェックイン機を導入すると、予約管理や顧客対応などの業務フローが可視化されます。 属人化していた業務が標準化され、無駄な作業が削減されることで、少人数でも回る効率的なオペレーションが実現可能です。 また、蓄積された顧客データの分析により、勘に頼らない精度の高い経営戦略が立案可能になります。 データに基づく改善は、収益性の向上につながりやすくなります。

インバウンド対応を強化すると新しい顧客層の売上を取り込みやすくなる

回復するインバウンド需要を取り込むことは、売上の柱を増やす大きなチャンスです。 とくに欧米豪圏や富裕層の訪日外国人は長期滞在や高単価消費の傾向が強く、平日や閑散期の稼働率を下支えしてくれる存在です。 多言語対応やWi-Fi環境の整備、異文化への配慮など、外国人ゲストが快適に過ごせる環境を整えましょう。 新たな顧客層の獲得と客室単価の向上が期待できます。

ホテルの課題を解消する4つのステップ

課題解決を成功させるには、闇雲に動くのではなく、順序立てて取り組むことが重要です。
  • 課題を棚卸しする
  • 小さなプロジェクトに分けて任せる
  • 外部パートナーと役割分担する
  • 対策をKPIとスケジュールに落とし込む
確実な成果を出すための手順を示します。

課題を棚卸しする

まずは自社が抱える課題をすべて洗い出し、可視化することから始めます。 漠然とした悩みではなく、「フロントの入力作業に時間がかかりすぎている」「平日の稼働率が低い」のように言語化しましょう。 そのうえで、緊急度と重要度の2軸で優先順位をつけます。 現状を正確に把握することで、リソースを集中すべき箇所が明確になり、最初に着手すべき改善テーマが自然と絞り込まれていきます。

小さなプロジェクトに分けて任せる

改革を一気に進めようとすると、現場の混乱や反発を招きやすくなります。 まずは「清掃チェックのデジタル化」や「口コミ返信のルール化」といった、短期間で成果が見えやすい小さなプロジェクトに切り分けます。 それぞれの担当者を決め、現場主導で進めることで、「自分たちの手で改善できた」という成功体験が生まれるでしょう。 この積み重ねが組織全体の自信につながり、現場の実行率と納得感が高まりやすくなるのです。

外部パートナーと役割分担する

専門性が高い領域を自社のリソースだけで解決しようとすると、時間と労力がかかりすぎて挫折する原因になります。 システム導入や集客施策については、知見豊富な外部パートナーやコンサルタントの手を借りるのも有効な手段です。 餅は餅屋に任せることで、社内スタッフは接客などのコア業務に集中できるようになります。 自社だけでは難しいDXや集客施策も進めやすくなるでしょう。

対策をKPIとスケジュールに落とし込む

対策を実行する際は、必ず数値目標(KPI)と期限を設定します。 たとえば「業務効率化」であれば、「残業時間を月10時間削減」といった具体的な指標を定めましょう。 そして、月次や週次で進捗を確認し、計画どおりに進んでいない場合は原因を分析して修正します。 数値に基づく客観的な振り返りを行うことで、施策のやりっぱなしを防ぎ、成果検証と改善サイクルを回しやすくなります。

ホテル経営が不安なときに取り組むべき3つのこと

経営の先行きに不安を感じたときこそ、以下の取り組みを実践し、足元の基礎を固めることが大切です。
  • 安全対策や衛生管理を見直す
  • 口コミ分析と返信の質を高める
  • 労働環境を見直す
詳しく解説します。

安全対策や衛生管理を見直す

施設の安全性や衛生管理は、ホテル運営の根幹をなす要素です。 消防設備の不備や食中毒の発生、清掃の不徹底といった問題は、一度でも起きれば、顧客の信頼を短期間で大きく損ないます。 そして、経営に深刻なダメージを与えかねません。 定期的な設備点検やHACCPに沿った衛生管理、防災訓練を徹底しましょう。 これらが不十分だと、重大な事故リスクと評判低下の可能性を同時に高めてしまいます。

口コミ分析と返信の質を高める

お客様の生の声である「口コミ」には、経営改善のヒントが詰まっています。 批判的な意見にも真摯に向き合い、丁寧に返信することで、ホテルの誠実な姿勢をアピールできます。 また、口コミを分析してサービスの不備や設備の不具合を特定し、即座に改善につなげる姿勢も重要です。 顧客との対話を大切にする地道な取り組みが、評価向上につながりやすくなります。

労働環境を見直す

長時間労働の是正や休暇の取得促進、適正な賃金設定など、働きやすい環境を整備することは急務です。 スタッフが安心して長く働ける職場になれば、採用コストや教育コストが抑制されます。 その分、人材育成やサービス向上に再投資できるようになるでしょう。 従業員の満足度を高めることが、人材育成に投資しやすい環境を作ります。

ホテルの課題によくある質問

最後に、ホテル経営者の方からよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
  • 課題が多すぎて何から手をつければよい?
  • 投資予算が足りないと感じるときはどうしたらよい?
  • 現場に話しても動いてくれないときはどうする?
疑問にお答えします。

課題が多すぎて何から手をつければよい?

優先順位に迷ったら、「お客様の安全」と「キャッシュフロー」に直結する課題から着手してください。 安全管理に不備があれば営業停止のリスクがあり、資金が尽きれば経営自体が止まります。 まずは守りを固め、そのあとに業務効率化や集客などの攻めの施策にリソースを配分するのが定石です。 すべてを同時に解決しようとせず、緊急性の高いものから1つずつ確実に潰していくことが、最短の解決策となります。

投資予算が足りないと感じるときはどうしたらよい?

まとまった資金がない場合でも、諦める必要はありません。 国や自治体の「IT導入補助金」や、省力化投資を支援する各種補助金などを活用すれば、設備投資のコストを大幅に抑えられます。 初期費用が安価なクラウド型のシステムや、リース契約を活用するのも一手です。

現場に話しても動いてくれないときはどうする?

現場の協力が得られないおもな原因は、変化への不安や目的の不理解にあります。 「なぜ変える必要があるのか」「変えることで現場がいかに楽になるか」を丁寧に説明し、共感を得ることが重要です。 キーパーソンとなるスタッフを巻き込み、現場の意見を取り入れながら進めることで、自分事として捉えてもらいやすくなります。

まとめ|ロードマップを作ってホテル経営の課題を乗り越える

ホテル経営の課題は多岐にわたりますが、現状を正しく把握し、適切な手順で対策を講じれば必ず乗り越えられます。 インバウンド需要という追い風を活かし、持続可能な成長を目指して、今日からできる一歩を踏み出してください。 ホテル経営の改善ポイントをさらに深く知りたい方は、宿泊業の最新トレンドや実践ノウハウを提供している宿夢もあわせてご覧ください。 現場ですぐに使える改善策や成功事例を掲載しています。 経営の不安をチャンスに変えるヒントが見つかるはずです。

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コラム監修者

北村 遼 Kitamura Ryo
株式会社宿夢 COO

<略歴>

  • 上智大学を卒業
  • 大手企業向けERPシステムの開発・販売・サポートを行う企業に就職
  • 経営資源に関するノウハウを培った後に、高級宿泊施設の予約サイトを運営する「株式会社一休」に転職。高級旅館・ホテルを累計300施設以上担当。
  • 同時に、新サービス「一休.comふるさと納税」を2名で立ち上げ、初年度から事業の黒字化に成功。事業部長に就任し、事業をさらに急成長させた。

株式会社宿夢に参画してからは、1年で企業規模を倍にさせることに成功し、COOに就任。

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